名物スイーツ『シャコーティス』

2017/03/01


リトアニアのお祝いの席でお馴染みスイーツ「シャコーティス(Šakotis)」は形がユニークなバームクーヘンです。

リトアニア語で『枝』を意味する『Šaka』(シャカ)に由来しているネーミングで、小枝がたくさん生い茂っているようなイメージです。

 

リトアニア人は結婚式、お誕生日やクリスマス、など大勢人が集まる機会にこのシャコーティスを良く食べています。

お菓子屋さんやスーパーで売られていますが、市場やお祭りの出店で売られていることも良くあります。逆に手作りベーカリーやカフェ、レストランには普通はメニューにありませんので、観光で来た方は手土産にして持って帰ることが多いです。

30~50cmの大きさのものが主流で、結婚式や節目のお誕生日など人が何十人も参加するようなときには1メートル級のものが出てきます。最近はお土産用のニーズに合わせて10㎝程度の手ごろなミニサイズのものも買えるようになりました。

このユニークな形をしたシャコーティスの歴史については残念ながら由来が分かるような文献が存在しないそうで、確かなことは言えないのですが、一つに、イースターの際に教会に沢山の卵が献上され、それを使いきれずにこのようにお菓子にし始めたという説もあるそうです。

こちらで暮らしているといろいろな機会にシャコーティスを食べる機会がありますが、中でもカウナスに住む友人夫妻が家に遊びに来てくれた時にいただいたシャコーティスは最高で忘れがたかったので、ご紹介したいと思います。

 

そのシャコーティスを焼いているのは『ニヨーレ・シャコチエネ(Nijolė Šakočienė)さん』という女性で、偶然にも結婚相手の旦那さんの苗字は『シャコーチュス(Šakočius)』。

まさにシャコーティス名人にぴったりのお名前です!ニヨーレさんのお母さまもシャコーティスを焼いていたそうです。

 

ここで簡単な説明ですが、リトアニアでは夫婦で苗字の語尾が違います。例えば、『シャコーチュス(Šakočius)さん』という男性と結婚した場合、奥さんの苗字は『シャコティエネ(Šakočienė)』になります。二人の間に男の子が生まれるとその子の苗字は父親の苗字を引き継ぎそのまま『シャコーチュス(Šakočius)』に、女の子が生まれた場合はまた語尾が変わり『シャコチューテ(Šakočiūtė)』になります。ただ最近は女性だけ苗字を見ると未婚か既婚か分かるのは性差別ではないかという考えもあり、又海外移住する人も多いので、移民先の国で夫婦別姓だと何かと不便だということもあり、夫婦共苗字を変えずにいる夫婦も多くなっています。

 

さて話を戻してニヨーレさんのシャコーティスですが、シャコーティスをちぎって口に入れたとたんしっとりとした食感の生地に自然な甘さと木を燻した香ばしいかおりが広がります。ずしりと重厚ながらも素朴で飽きが来ません。リトアニアの森や野原、それを育てたお日さまのエネルギーがそのままギュウギュウに詰め込まれたような、何とも言えない存在感で、一度食べたら忘れられません。

 

ある秋の日、念願叶ってニヨーレさんのシャコーティス工房にお邪魔させていただきました!

カウナスから更に1時間程度、車で行ったところにある小さな村の彼女のご自宅の一角が工房になっています。昔は別のお仕事をされていたニヨーレさんですが、リタイアをきっかけに本格的にシャコーティス作りに取り組みたいと、旦那さんに自宅の敷地内に工房を作ってもらいました。

 

材料はいたってシンプル。大量の卵にバター、そしてお砂糖に小麦粉。でも材料すべてがとってもスペシャルです!卵は村の人たちが平飼いしているニワトリの産みたての新鮮なもの。そしてバターももちろん、村の人たちが家で飼っている牛から絞った乳で作った濃厚バター。小麦粉もその土地で収穫した麦をひいて作られていて、まさに地産地消です。

生地ができたら、それを特別なシャコーティス用の炉で焼いてゆきます。ちなみにこのシャコーティスのための炉なども全て旦那さまお手製だそうです。

 

 

メタルの棒がクルクルと回転し、そこにシャコティスの生地をおたまでかけてゆきます。炉の傍に座っているとかなり暑いですが、根気よく作業を続けなくてはなりません。

また、ニヨーレさん家のシャコーティスは薪にもこだわりがあり、旦那さまが切りだして薪にした白樺を使っています。白樺を使うと香ばしく美味しく焼けるからとうことです。

 

綺麗な形に仕上がるよう、まんべんなくバランスよく、そしてコンスタントに生地をかけてゆく作業は熟練技のなせる業です。私も少しトライさせていただきましたが、少し炉の前に座っているだけでも汗がジワリと出てきます。

作業は淡々と続いてゆきます。なんと生地がたっぷり入ったボウルを片手に持ちながら作業をしているニヨーレさんでした。現在は、多くの場合は機械化されており、こうして昔ながらのやり方をする方はとても少ないそうです。

こうしてシャコーティスの生地がどんどん重ねられつつメタルの棒が回転を続けると、遠心力が働き、新たにかけた生地の先っぽが少しづつピンと尖って角のようになってきます。

そしてできたシャコーティスがこちら。焼き上がったら完全に冷めるまではこうしてかけておきます。

 

冷めたものをメタルの棒から外して行く作業です。信じがたい程に重量があるので、ご夫婦での作業です。

 

メタルから完全に外した後、最後に旦那さまが、取り外しがしやすいように予めメタル棒に巻き付けて合った糸を抜きます。形が壊れないように注意しながら行わなくてはなりません。

 

こうしてお二人の力を合わせて完成したシャコーティスは貯蔵庫で保存されます。このような冷暗所では半年ほど保存がきくそうです。

 

丹精込めて作られたこちらのシャコーティス、作ることができる数にも限りがあるためお二人は作った分だけ市場やお祭りなどで売り歩いているそうで、お店やスーパーでは買うことはできません。

毎週土曜日にカウナスの旧市街地のはずれにある駐車場で開催されるエコ(オーガニック)な食材・食品を扱う青空市場でも時折販売しており、3月初旬にヴィリニュスで行われるカジュコ・ムゲ(Kaziuko Muge) という手作りマーケットにも参加なさっています。

小さいサイズにくだいたお手頃サイズのものから30㎝くらいのものまで、いろいろな大きさがあり量り売りになっています。

またニヨーレさんのシャコーティス・ファンはクリスマス、誕生日などの機会に彼女に注文して村の工房まで取りに来ることもあるそうです。

そんな滅多にお目にかかれないニヨーレさんのシャコーティスですが、お祭りやカウナスのマーケットで偶然出会うことがあれば『ラッキー!』と思ってぜひお味見してみてくださいね。

この後お二人の特製シャコーティスを頂きながらお茶をし、夫婦円満の秘訣などを伺いつつ楽しい時間を過ごさせていただきました。ありがとうございます!

ニヨーレさんのfacebookページはこちらから→https://www.facebook.com/nijole.sakociene

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